ピカオ・プレト(Picao Preto)
ピカオ・プレト(Picao Preto)

サマンバイアは南米の熱帯雨林に自生するシダの一種です。サマンバイアが属するPolypody科には6000種類にも及ぶシダ類の3/4が含まれていますが、そのほどんどは両半球の熱帯地方で見ることができます。Polypodium属には75種類の植物が分類されていて、その多くは長年にわたり薬用に用いられてきています。"Poly"とは「多くの」を意味し、"Podium"が「足」を意味するところから、 Polypodiumの名前は由来しています。事実、Polypody科のシダには足のような根或いは根茎が沢山ついています。

熱帯雨林でのサマンバイアの利用法
多くのシダがそうであるように、サマンバイアも地を這うような、そして沢山に別れた大きな根を持っていますが、この根の部分が最も薬効があるとして利用されています。アマゾン熱帯雨林一帯では、サマンバイアの根茎を液体に浸し、熱さましとして利用されたり、新鮮な根をすりつぶし、お茶をたて、百日咳や腎臓の軽い疾患の治療に用いられています(1)。ペルーアマゾンのボラス族ではサマンバイアの葉を飲み物に入れて、咳止めとします(2)。また、根茎の部分を膵臓障害に用いる種族もいます(3)。ギアナの熱帯雨林に住むクレオーレ族は、根茎の煎じ汁を儀式の際に子供が入浴するお湯に用います(4)。地域によってはカラガーラの名で呼ばれており、癌や疥癬など様々な疾病の治療に用いられています(5)。
世界各地でのサマンバイアの利用法
伝統医療で利用されているシダは世界各地に沢山あります。ヨーロッパのハーブ医療では"Polypodium vulgare"というシダが利用されていて、これはヨーロッパの森林に自生しています。ヨーロッパの"Polypodium vulgare"や南米の"Polypodium decumanum"を含む大半のシダ類は、変質剤、強壮剤、肺病薬、気管支上部の不調の為の去痰薬として用いられる薬草として見なされています(1)(7)。ブラジルの伝統医療でも、変質剤、発汗薬、抗リューマチ薬、強壮剤、肺病薬、去痰剤、咳薬として、咳や気管支炎、流感や気管支系の疾患やリューマチや皮膚病などの用途で利用されています(7)(8)。ペルーのハーブ医療では、根茎が咳、熱、泌尿器系の感染症や疥癬、おでき、潰瘍、膿瘍など皮膚系の疾患の治療に用いられています(9)。

サマンバイアの持つ免疫調整作用

Polypodium属の植物に対する科学的興味のレベルは近年頓に高まっています。フラボノイド、ポリフェノール、タンニン、フロログルシデス、テトラシクリック・トリテルペン、アルカロイドなど多くの潜在的抗生物質がPolypodium属の植物に発見されています。ガテマラに自生しているサマンバイアの親戚である"Polypodium leucotomos"には免疫調節作用があり、免疫系の様々な疾患への応用に関する研究が進められています(11)(12)。この免疫調節作用はアナプソスという植物化学成分によるもので、サマンバイアにも含有されていることが確認されています。この成分の疥癬への応用に関しては多くの研究で取り上げられています。

疥癬やアトピー性皮膚炎に対する効果

疥癬は、慢性の皮膚病の一種で、免疫調整機能に関連すると考えられています(13)。1974年~1987年にかけて行われた研究では、Polypodium decumanumから抽出したエキスが、疥癬やアトピー性皮膚炎に効果的に用いられたことが確認されていて、サマンバイアの免疫調節効果が実証されています(13)。サマンバイアが疥癬やアトピー性皮膚炎に効果的である理由については未だ解明されていませんが、一つの可能性として、アナプソスによる免疫調整作用が有効に作用していると考えられています(14)(15)。健康な人体に対し行われた臨床実験では、サマンバイアのエキスがT4+リンパ球やB-細胞の数に影響を与えることなく、T8+リンパ球の数を増加させる作用があるという結果が得られ、その免疫調整作用が実証されています(13)。
更に、近年行われた研究結果によると、疥癬の病原体にPAF(血小板活性ファクター)が関係していることが示されていますが、1992年のリサーチでは、サマンバイアから分離されたアデノシンと呼ばれる植物化学成分がその活動を抑制することが実証されています(16)。また、1997年のリサーチではサマンバイアから分離されたスルフォキノヴォシル・ディアシルグリセロルと言う別の植物化学成分が疥癬に効果的に働くことが実証されています(17)。多くの不飽和脂肪酸が、Leukotreineと呼ばれる化学物質を作り出す体内の化学プロセスに影響を与えるということが実証されていますが(13)、疥癬の皮膚には、疥癬の炎症の原因の一つと目されているLeuketorieneが異常なまでに大量に含まれていることが判っていて、1994年の臨床研究では、サマンバイアの脂肪酸がLeuketorieneの過剰生産を抑制するのに効果的であることが実証されています。
今のところ、サマンバイアの効能のメカニズムに関する明確な答えは得られていませんが、世界中の自然療法士はサマンバイアに含まれる活性成分に関する明確な根拠を持たないまま、疥癬、咳、喘息、咳風邪、流感、気管支系や免疫系の疾患、リューマチ、高血圧、痛風など様々な用途でサマンバイアを利用し続けてゆくことでしょう(19)-(21)。

【出典】
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