バレリアンは、世界中に200種類以上あるバレリアーナ属に対して与えられている一般的な名称です。ヨーロッパのハーブ医療において最も一般的に使用されているバレリアーナ属は、バレリアナ オフィシナリスですが、これは直立した多年草で、ヨーロッパ中の森林や河岸、じめじめした牧草地に自生しているのが見られます。バレリアナオフィシナリスの根から抽出したエッセンスが薬用として用いられています。
バレリアンの伝統的利用法
バレリアンの使用に関する記録は古く、ギリシャ時代にまで遡ります。消化不良、肝臓障害、泌尿器系の不調などに効果があるとして広く推奨されたり、また紀元前には不眠症の治療に用いられていました。
不眠症や神経性の不調にバレリアンが積極的に用いられるようになったのは16世紀になってからです。18世紀になる頃には消化器系の不調に関連した神経性の不調に対する治療や鎮静剤としての利用法がヨーロッパにおいてきちんと確立されるようになりました。
今日、バレリアンはドイツ、ベルギー、フランスの薬局方において医療用ハーブとして公に認められています。現代のハーブ医療でも、バレリアンの根から抽出した0.5%以上の精油を含むエッセンスがよく用いられます。バレリアンの根にはそれがもたらす鎮静効果の要因的活性成分と考えられている『バレレニック酸』が多く含まれています。このバレリアンの根から抽出したエッセンスは、パッションフラワー、レモンバーム、セイヨウサンザシなどその他の鎮静効果のあるハーブと組み合わせで利用されるのが一般的です。
不眠症
米国では成人の3割が不眠症というデータがあります。更にこの中の15%が睡眠薬などの処方や治療を受けていると言われています。バレリアンの根に関するあるリサーチによると、バレリアンは、眠りに入るまでの時間を短縮する上で有効であることが示されています。また、複数の臨床データでは、バレリアンの特徴として、眠りに入る手助けとなると共に、より深く安らかな睡眠をもたらすことが実証されています。この臨床実験では、睡眠前にバレリアンを400mg~450mg服用した場合、被験者がより効率的に睡眠に入ることや、夜に目を覚ますケースが減少すること、更に翌朝目覚めた時に睡眠中に見た夢の内容を良く覚えているケースが増加する、という結果が得られています。
更に重要なポイントとして、一般的に不眠症に対して処方される薬にありがちな翌朝に残る『あと作用』がバレリアンのには無いことが挙げられます。ドイツで行われた最近の研究では、バレリアンの根から抽出したエッセンスとレモンバームエッセンスがブレンドされた標準的なバレリアン製品を服用したグループとベンゾジアゼピンハルシオンを服用したグループの比較がなされています。この実験は9日間に渡り実施されましたが、両方のグループ共に睡眠に入るまでに要する時間と睡眠の品質の両面において、著しい改善が見られましたが、ハルシオンを利用したグループでは、翌日に残る『あと作用』や日常生活において集中力の欠如を訴えるケースが示された一方、バレリアンとレモンバームを服用したグループではそのようなケースがなかったことが報告されています。
こういったレポートや過去の利用実績の積み重ねから、バレリアンは欧米では不眠症患者に対すハーブ療法の一つの選択肢としての明確な地位を確立するようになってきています。また、バレリアンには習慣性が全くないことから、一般に利用されている潜在的な習慣性があるとされている不眠症薬に対する論理的なオルターナティブとして、注目を集めています。
不安
最近、『不安』でお悩みの方が増加傾向にあるようです。不安のしっかりとしたマネージメントには、ストレスの軽減、適切な食事、そして副腎のサポートが必要であるとされています。比較的軽微なあるいは中庸な不安の場合は、各々の初期症状の軽減をもたらす薬品やサプリメントを使用することにより、これら症状を上手く受け入れる手助けとなります。不眠症や睡眠改善における成果やベンゾジアゼピンとの比較において、不安のマネージメントにおいてもバレリアンを使用するヘルスケアプロフェッショナルが増加しています。ベンゾジアゼピンが習慣となってしまっている患者に対しバレリアン配合製品を用いることにより、ベンゾジアゼピンの使用を止めさせるといったバレリアンの使用方法がありますが、これはとても興味深い臨床例と言えるでしょう。ある臨床例によると、バレリアンエッセンスは、ベンゾジアゼピンの使用を止める時に出る症状を軽減させ、更に不安に対する長期的な治療においてはベンゾジアゼピンの代替となり得ることが示されています。不安におけるバレリアン或いはバレリアン製品の使用は、夜と共に昼間の使用も必要とされています。また、ベンゾジアゼピンを止める場合のバレリアンの使用については、ヘルスケアプロフェッショナルの指示が必要となります。
一般的な利用法
不眠症の場合、300~500mgのバレリアンエッセンス(根から抽出したもので最低0.5%の精油が含まれているものが望ましい)を就寝の1時間程前に摂取することが推奨されています。12才以下の子供の摂取量については、ヘルスケアプロフェッショナルの指示に従って下さい。不安のマネージメントには、朝は200~300mg、夜は不眠症と同じく就寝の一時間程前に300~500mgのバレリアンエッセンスを摂取することが推奨されています。ヨーロッパで発表されているバレリアンに関する研究論文では、妊娠や授乳期間中の使用に関する副作用は一切発表されておりません。
【出典】
Hobbs C: Valerian - A Literature review. HerbalGram 21: 19-34, 1989. British Herbal Compendium.
British Herbal Medicine Association, 1992, pp.214-7.
Valerianae Radix (Valerian root). European Monograph, European Scientific Cooperative for Phytotherapy, 1992
Holzl J & Godau P: Receptor binding studies with Valerian officinalis on the benzodiazepine receptor. Planta Medica 55: 642, 1989.
Mennini T. Bernasconi P, et al: In vitro study on the interaction of extracts and pure compounds from Valeriana officinalis roots with GABA, benzodiazepine and barbiturate receptors. Fitoterapia 64: 291-300, 1993.
Leathwood PD & Chauffard F: Aqueous extract of valerian reduces latency to fall asleep in man. Planta Medica 51: 144-8, 1985.
Leathwood PD, Chauffard F, et al: Aqueous extract of valerian root (Valeriana officinalis L.) improves sleep quality in man.. Pharmacol Biochem Behav 17: 65-71, 1982
Dressing H. Riemann D, et al: Insomnia: Are valerian/lemon balm combinations of equal value to benzodizepine? Therapiewoche 42: 726-36, 1992.
Brown D: Valerian: A possible substitute for benzodiazepines? Quart Rev. Nat Med Winter Quarter, pp. 17-18, 1993.
Tufik S, Fujita K, et al: Effects of prolonged administration of valepotriates in rats on the mothers and their offspring. J Ethnopharmacol 41: 39-44, 1994
注 : 当ウェブサイトに含まれている情報は、啓発的或いは教育的なところを目的として紹介しているものであり、病状の診断、療法の処方、病気の治療など適切な医療行為の代替としての使用を意図するものではありません。